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シルバーレインの、長南アヤ(b76051)のブログです。
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8月某日。夏休みということもあって、部活動等で来ているわずかな生徒
しかいない銀誓館学園は、いつもより閑散としていた。
翔子はと言うと、この日は夏期講習、悪く言うと欠点課題の補習で珍しく
学園に来ていた。
午前の補習を終え、昼食を調達した翔子は、特に行くアテもなくふらついていた。

翔子「ふー、ちょっと並んだけど、なんとか買えたわ。
   カツサンドと牛乳、意外と合うのよねコレが。」

???「きゅぅぅ……」

翔子「……?
   ん、今なにか聞こえたような……?」

──ガサガサッ!

翔子「!!
   やっぱり、そこの草むらに何か居るわ!」


翔子が振り返ると同時に、小さな影が草むらから現れた。


ネコ「……みゃあ~」

翔子「……、なんだネコか……。
   って、あら?」

翔子「無いッ!
   あたしのお昼ご飯……!」

翔子「一体どこに……、あ!」


視線の先には、昼食を持ち去る小さな白い物体があった。
白い物体は、翔子に見つかった事に気付いたのか、素早く逃げ去った。


翔子「待ちなさい!……え!?」


白い物体は落下防止の柵の下を潜ると、翔子の昼食を抱えたまま眼下の崖下へと吸い込まれていった。


翔子「落ちた!なんなのあれ!?
   ……いや、そんな事はどうでもいいわ!
   お昼返しなさ~い!!」


翔子は軽やかに柵を飛び越え、白い物体を追った。


???「……きゅ!」

翔子「こいつ……、モーラット!」


モーラットはまさか翔子が崖下まで追ってくると思っていなかったのか、
奇妙な鳴き声を上げて驚いた様子だった。


翔子「それなら容赦しないわよ!
   起動!オラアッ!」


翔子は落下しながらイグニッションし、空中でモーラットに鉄拳を叩き込んだ。
……はずだった。


翔子「かわされた!?
   ……くっ。」


すぐさま体勢を立て直し、着地。
本業能力「エアライド」のお陰で着地のダメージは無く、幸い人通りが少なかった為、
落下もイグニッションも人目に付く事は無かった。
続いてモーラットも低い位置に降りてくる。攻撃をかわす際に落としたのか、
昼食は無くなっていた。


翔子「む~、よくもあたしのお昼ご飯を……!
   いくら可愛くても許さないわよ!」

翔子「さっきは外したけど、今度は射程距離内よ!
   確実に当ててやるわ!」

翔子「オラオラオラオラオラオラ!!」


翔子の目にも留まらぬ両腕ラッシュが放たれる。
しかし、モーラットはそれさえも紙一重でかわした。


翔子「またかわされた!
   しかも片手じゃなくて両腕のラッシュなのに!」


それだけではなかった。翔子の右腕からは火花と煙が上がっていた。


翔子「うっ、これは火花……!
   あいつ、いつの間に反撃してたのよ?」

翔子「どうやらこいつ、相当侮ってはいけない相手のようね。」


翔子が左腕を振りかぶる、とその時。
崖の上からモーラットではない、別の鳴き声が聞こえてきた。


ネコ「……んにゃぁ!」

翔子「あれは、さっきのネコ!
   まずい、あのままじゃ落ちる!」


辛うじてつかまっていた猫の前足が柵から離れる。
翔子は落下地点に飛び込もうとした、が。


翔子「うぐぅ!?
   さっきの火花のダメージで右腕が伸ばせない!
   これじゃ受け止める事ができないわ!」


翔子はもう駄目だと目を閉じていた。
ドサアッ、という落下音の後、最悪の光景を想像しつつ目を開ける翔子。


翔子「……え?」


なんと、先程のモーラットが自らの身を下敷きにして猫を庇っていた。
その目には、敵意といったものはもう無かった。


モーラット「きう。」

猫「にゃあ。」


モーラットが近くの草むらに分け入ると、先程の牛乳を持って出てきた。
モーラットは器用に牛乳のパックを開けると、目の前の猫にそれを差し出した。


翔子「あんた、優しいのね……。
   おいで。あんたもネコも、怪我してないか診てあげるわ。」


イグニッションを解除した翔子に敵意を感じなかった為か、モーラットは警戒する
事無く翔子の接近を受け入れていた。


翔子「うん、ネコの方は大丈夫みたいね。
   でもあんた、ネコを受け止めた時に枝で切ったの?
   怪我してるわよ。」

モーラット「きっ。」

翔子「なによ、強がってンじゃあないわよ。」

モーラット「……。」


モーラットは無言で草むらの中に消えていった。
なんなのよあれは、と半ば呆れのような感覚を覚えていると暫くして、
モーラットが翔子のサンドイッチを咥えて戻ってきた。


モーラット「きう。」

翔子「あら、コレ返してくれるの?
   やっぱりいい子なのね!
   しかもよく見たら、あなたとっても可愛いわ!」

モーラット「もきゅう……」

翔子「ふふ、テレてるの?
   このサンドイッチ、あんたにも半分あげるわ。」


二人(?)の間には奇妙な友情があった。
はんぶんこにしたカツサンドを食べ終わり、しばらくすると。


翔子「いっけない!戻らないと……。
   えーと、どこから登ればいいのかしら?
   飛び降りるのは楽なんだけど……。」

モーラット「もきゅ……。」

翔子「あんたは怪我してるんだからここに居なさい。
   午後の補習が終わったらまた来てあげるから。」


一方的にそう言い放つと、翔子は手近な木に登り、柵の上へと戻っていった。


1時間後、補習を終えた翔子は、先程のモーラットの居る林へと向かった。


翔子「えーと、ここね。
   ……とおっ!」

翔子「着地!」

モーラット「もきぅ。」

翔子「やっ!お待たせ。
   そうだ、アヤなら怪我も何とかしてくれるかも。
   ……よし、あんたちょっと来なさい。」

モーラット「きゅ、もきう!」


翔子はモーラットをむんずと掴むと、無造作に鞄に突っ込んだ。
そしてそのまま帰宅、アヤの部屋にけたたましく上がり込んだ。


翔子「ただいま~!」

アヤ「お帰りなさい、翔子さん。」

翔子「ねー、アヤー。ちょっと見て欲しいものがあるんだけど。」

アヤ「はい、何でしょうか?」

翔子「コレ。」


翔子はまたモーラットを掴んで、鞄から引っ張り出した。


アヤ「えーっ、この子、モーラットではありませんか!?」

翔子「うん、怪我してるみたいだから診てあげて。」

アヤ「そうはいっても、私は獣医さんではないのですが……。
   まあ、軽傷のようなので私でも手当てできそうですが。」

 

アヤ「はい、これで大丈夫です。」

翔子「ありがとね、アヤ!」

アヤ「ところで、どこで何をしていてこの子と出会ったのか、
   詳しい経緯を話していただけますか……?」

翔子「かくかくしかじか。」


翔子はアヤに先程の出来事をかいつまんで話した。


アヤ「なるほど、そういうことが……。」

翔子「ねえ、アヤ。この子飼っていい?」

アヤ「ええ!?」

モーラット「きゅ!?」


翔子の唐突過ぎる提案に、アヤもモーラットも驚いた様子だった。


アヤ「でもこの子、多分飼い主さんがいますよ。」

翔子「ナヌ!?
   なんで、なんで?」

アヤ「この子の毛並み、よく手入れされていますよね。」

翔子「あ、確かに。」

翔子「でもそれはきっとこの子が綺麗好きなだけよ!
   ね、飼っていいでしょ?」

アヤ「そうは言っても、どうやって家で飼うのですか?」

翔子「う……、でもちゃんと面倒見るから!」

アヤ「……。」

モーラット「きゅ……。」


アヤは困惑した様子で暫くモーラットを見つめていた。


アヤ「この子の目、昔の私と同じ目をしています……。
   孤独で、誰にも心を開く事の無い悲愴な目です。」


アヤ「……わかりました。」

翔子「え……。」

アヤ「ただし、飼い主さんが見つかるまでですよ。」

翔子「やったー!
   アヤ大好き!」


アヤにしがみつく翔子。やめてくらはい、と恥ずかしがるアヤ。
そしてそれを見て呆れた様子のモーラット。


翔子「これからよろしくね、リサ!」

アヤ「リサ?この子の名前ですか?」

翔子「うん。」

アヤ「リサ……、1951年のソ連の宇宙犬の名前ですね。」

翔子「いや、適当だけど……。」

翔子「……あ、そうだ。
   このクマのぬいぐるみの背中に突っ込んでおけば、
   ぬいぐるみで通用するんじゃない?」


そう言うと、手近にあった翔子のクマのぬいぐるみの背中を開け、
リサを掴んで押し込んだ。


リサ「んぎゅ、もきゅうぅ!」

翔子「ちょっと静かにしなさい!
   ……よし、これで大丈夫ね。」

アヤ「全然大丈夫じゃないですよ……。
   翔子さん、あなたこの子の事好きなのか嫌いなのか、
   どっちなんですか……?」

アヤ(本当に大丈夫なのでしょうか、この二人……。
   先が思い遣られるのです……。)

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男性
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